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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1313号 判決 1960年4月28日

控訴人(被告) 大阪市東淀川区農業委員会

被控訴人(原告) 藻井泰顕

原審 大阪地方昭和二三年(行)第二三九の一六号(例集一〇巻九号151参照)

主文

原判決を取消す。

本件訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は主文と同旨の判決を求めた。

被控訴人は弁論の行われた当審口頭弁論期日に出頭しなかつたが、控訴人訴訟代理人の陳述した原審口頭弁論の結果によれば当事者双方の主張証拠の提出援用認否は原判決事実摘示の通りであるからこゝにそれを引用するる。

理由

被控訴人は本訴を取下げる旨の書面を提出したが、控訴人が同意しなかつたためその効果を発生しなかつたので、先づ控訴人の本訴は不適法であるとの主張につき判断する。

行政事件訴訟特例法第二条の法意が、法令の規定により異議訴願等の行政内部の再考反省による是正手段の定められている場合には、行政処分に対する救済は先づその手段によらしめ、それによつて救済の得られない場合に初めて司法的救済を得させ、もつて司法の行政への介入の機会をなるべく少くしようとするにあることはほとんど疑のないところであらう。そしてその法意は、一の行政的法律効果の発生を目的として手続的に数段階に分れて行政行為がなされる場合に、その先行処分についてのみ異議訴願等の行政的救済手段が設けられ、しかもその各段階の行政処分に共通の違法があり、先行処分につき抗争手段がなくなつても、同一違法を鳴らして後行処分につき司法的救済に訴えうる場合においても、別異に解すべき理由はない。けだし、かゝる場合においても先行処分につき行政的救済に訴えしめれば行政内部の再考反省によりその段階において救済がえられ、司法的救済を求める機会を少なからしめうることは疑の余地がなく、どうせ後行処分につき同一違法につき司法的救済がえられるという理由で先行処分につき定められた行政的再考の機会を与えなくてもよいということにはならないからである。

更にかかる場合、後行処分に対し抗告訴訟を提起し得る段階に到れば、先行処分に対する抗告訴訟において訴願前置の要件が遡つてなくなるという見解も採用できない。

けだし、法はかかる場合の救済手段として後行処分に対する抗告訴訟を規定しており、又それによつて権利救済の十全を期しうるからである。

本件において、被控訴人は控訴人が原判決末尾物件表記載の被控訴人所有の農地につき昭和二三年八月一二日に定めた買収計画につき違法があると主張してその取消を求めるというのであるが、当時施行されていた自作農創設特別措置法第七条所定の異議訴願を経由したことは被控訴人の主張立証しないところであるから本訴はその前提条件を欠く違法な訴である。このことは本訴が右のような異議訴願につき定めのない後行処分たる買収に対する抗告訴訟に変更しうるという理由からは別異に解しえない。かゝる変更がなされない本訴を、異議訴願前置の法意上その定のない行政処分に対する抗告訴訟と同一に取扱う理由のないことは叙上説示により明白であらう。

以上と異る見解に立ち本訴を適法とした原判決には行政事件訴訟特例法の解釈を誤つた違法があるからこれを取消し、本訴を却下することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 小西勝 井野口勤)

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